才川夫妻の恋愛事情






その晩、才川くんは日付が変わってから帰ってきた。

ガチャリと鍵が開く音がして、続く玄関からの物音で目が覚めた私は、ベッドの中から目覚まし時計に手を伸ばす。暗い部屋の中で時計のライトを点灯させると、時刻は深夜一時前。ちょうど終電で帰ってきたであろう時間。それだけ確認して時計を元あった場所に置き、布団を被りなおす。

程なくして才川くんが寝室に入ってきた。

着替えを取りに来たんだろうと思った。起きようかな、どうしようかなと狸寝入りをやめようか考えていると、一向にクローゼットを開ける気配がない。



あれ?



不思議に思うと同時にギシッとベッドが軋んだ。



あれ、この状況前にも……。

性懲りもなく、期待に胸は高鳴った。




Yシャツ越しに伝わる体温。自分より大きな体から少し体重をかけられて苦しくなる。でも決して不快ではない重み。そのうち手のひらがそろりと私の頬を撫でて吐息を近くに感じた。――今日はほんのりお酒が香る。結構飲んだんだなぁ。野波さんはお酒強いのかな。

耳にかかった髪をさらりと指で流されて、耳元に吐息がかかると余計な考えはすべて流されていった。ぴちゃ、と彼の唇が開く音がした。冷静に。冷静に。どうせまた「寝たフリすんな」なんて良い声で囁かれてしまうんだ……。今度は飛び上がらない、と心に決めて。彼の言葉を待つ。



「花村」




……花村??


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