才川夫妻の恋愛事情
「起きてたんだな」
「起こされたの」
「起きてただろ」
「……」
「野波さんと何話したか、気になる?」
「……気になりません」
「あっそ」
意地悪く目を細めて、笑う。酔っ払ってはいないようだけどお酒が入ってご機嫌の様子。楽しかったのなら良かった。何よりです。
それにしたって許せない。
彼は最後に、冗談で言ってほしくないことを言った。
「……才川くんちょっと」
「ん?」
「ここ座って」
そう言ってベッドサイトのランプを点けた。オレンジの薄明かりが広がって、才川くんの顔がさっきよりもよく見える。
「なに?」
「お話があります」
自分のベッドの上に正座して彼が座るスペースをつくる。すると才川くんは着替えを取り出そうとしていたクローゼットを閉めて私のベッドに腰かけた。
「なんですか奥さん」
「あなたの考えていることがよくわかりません」
まっすぐ才川くんの目を見つめて真面目に言う。切れ長の目。深い色の瞳。正面から捉えれば何かが読み取れる気がして。でも、駄目で。
ふっと彼が会社の顔で微笑むから、掴みかけた何かはうやむやになって消えた。
「またまた。花村さんは先読みも素晴らしいしとっても優秀で助かってるけど」
「そういうことじゃなくて」
「……みつき?」
「才川くん、ほんとに。最近特にさっぱり。まったく。意味がわかんない」
「…………」