才川夫妻の恋愛事情



それは春になって新入社員が入ってくるよりも少し前。三月の卒業シーズン。大学卒業と同時に籍を入れた私たちの、結婚記念日が間近に迫った日のこと。

休日だから気合いを入れて掃除しようと、私は寝室に掃除機をかけていた。



才川くんが掛け布団をベランダに干しにいってくれている時でした。

冬を抜けて暖かくなってくると家事を手伝ってくれる才川くん。私が早々にコタツを片づけたときはすこぶる不機嫌だったけど、それも毎年繰り返していればもはや定番の流れです。

とにかく私は、機嫌良く鼻歌なんて歌いながら掃除機をかけていた。

そしてふと気付いた。

いつもは鍵のかかっているベッドサイドテーブルの引き出しが、開いていることに。



私は吸い寄せられるようにその引き出しの中を覗き、



出てきたのは、一枚の紙きれ。






「みつき干せ…………あ」



なんだこれ、と思った。

離婚届を見つけた私を見て才川くんが珍しく〝しまった〟って顔をするから、あぁここは怒らなきゃいけないんだ、と思って。怒るべき場面なんだ、と思って。



「……私ハンコ押せばいいのかな? これ」



寝室の入り口に立っている才川くんに向かってぺらりとその紙を見せた。

〝しまった〟という顔をしたということは、これは私に見つかってほしくないものだったんだろう。

才川くんは〝ハンコ押せばいいの?〟という私の質問に、低い声でゆっくりと答えた。



「……押したければ」



ふむ。



「そうですか」

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