才川夫妻の恋愛事情



なんとなく、まずいなぁ、とは思っていた。

新人歓迎会の席で、才川くんの隣に座ったときから。今日は注意しておかなければいけないと、わかっていた。





*






「え、じゃあ花村さんって彼氏いないんすか!」

「う、うん……悲しいことにね」



同じテーブルに座った新人の男の子はトレーナーの教育が行き届いているのか、それとも大学で先輩の扱いを熟知してきたのか。一緒に飲んでいる先輩を気持ちよく酔わせる術を知っていて、絶妙に持ち上げてくれる。私に彼氏がいないと聴くと、本当に喜んだかのように声をあげてくれた。

……だけど違うんだ。違うんだよ。ハツラツとした新人くんに対して思う。

今そういうのいいから! やめて! と叫びたい気持ちに駆られる。



隣の彼が何を考えているのか、手に取るようにわかるから。



才川くんは私の隣で、にこにこと新人くんの話を聴きながらハイペースでビールジョッキを空にしている。



「あ、才川さん次どうしますか? ビール?」

「うん、もう一杯もらおうかな」

「すみませーん! 注文いいですか」



ほんとに、新人とは思えないくらい気がまわるなぁと感心しながら、心情的には小さく縮こまっていた。才川くんはなぜこんなにガンガンいこうぜ! なペースでジョッキを空けているのでしょうか……。普段はこんな飲み方しないのに。

嫌な予感しかしない。



「いやぁ、でも信じらんないです。花村さんに彼氏がいないとか。ねぇ才川さん、そう思いますよね?」



< 18 / 319 >

この作品をシェア

pagetop