才川夫妻の恋愛事情
ギシッ、と彼の膝が私のベッドを軋ませる。座っていた私の上に、少しずつ迫ってくる。ネクタイだけをはずしたYシャツ姿で。あまりに戸惑って若干後ずさってしまったけど、にじりよられて距離はすぐに詰められた。
「抱きたいんだけど」
駄目? なんてまた訊かれてしまったら、駄目なんて言えるはずがない。
言えないでいると正面から唇を塞がれて、パジャマのボタンを上から外される。
「んンっ……」
少し強引な、唇を味わうようなキスだった。
食んでくる唇の隙間から、漏れる息に交えて彼が言う。
「……一回だけにするから」
「……それも珍しい」
「なんで。……いっぱいシたい?」
「んっ、やぁっ……」
べろっとザラついた舌の感触で背筋が震えた。私が後ろに倒れそうになるのを背にまわした手で支えながら、才川くんは、胸に顔を埋めて言ったのだ。
「……あともうちょっとだけ待って」
「…………え? っあ」
結局その晩、才川くんは何一つ明かさずに。
本当に一回だけ、これでもかというほど優しく私を抱いた。