才川夫妻の恋愛事情
「ん…………」
体の節々が痛くて目が覚めた。
気付けば、みつきのベッドにいた。
頭上に手を伸ばして彼女の目覚まし時計を探る。爪にカツッと当たったのを感じてそれを掴み、確認すると朝の四時前。体が痛いのは当然で、シングルベッドは二人で眠るには狭すぎる。よく落っこちなかったな、と思いながら腕の中の彼女を確認するととてもよく眠っていた。俺のシャツを掴んで寝ぼけながら胸に頬ずりをしてくる。
「……」
なんとなく離れがたいが、それでも離れなければいけない。
起こさないように最大限気を付けてそっと細い肩を押し離す。こちらを向いていたみつきを仰向けに寝かせて、ゆっくりと肩から手を剥がす。その間際、薄く開いた唇にキスを落とした。寝つきのいい彼女はそんなことでは目を覚まさない。
体を起こして気付いた。自分の格好は帰ってきたときのYシャツのままだった。風呂に入らなければ。シャワーを浴びて、みつきが起き出す前に自分のベッドに戻らなければならない。
これまでずっとそうしてきたはずなのに、今日は。やっぱりどうにも離れがたかった。
じっと寝顔を見つめる。
〝私のこと大好きだよね〟
〝……好きだから以外ありますか?〟
自信満々に言った顔と、悔しそうに頬を赤らめた顔を思い出しながらさらりと前髪を撫ぜた。
会社では結婚のことを隠しているから、六年前に夫婦になったことを知っているのはごく少数。親と古い友人が数人くらい。彼らでさえ、あんなに早く結婚を決めたのが俺のほうだと知ったら驚くんだろうな。
勝負はとっくの昔についていた。
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