才川夫妻の恋愛事情
きっと新人くんは、先輩を会話から置いてけぼりにすまいと配慮したんだろう。でも、違う! 違うよ! と教えてあげたい。そもそも話題が間違っているのだということを。きっとこの新人くんは私たちが才川夫妻なんて呼ばれていることも知らなくて、純粋に話題を振ってくれているに違いない。
「そうだな」
才川くんはぐっとビールの残りを飲み干して、また新しくきたジョッキに口をつけ始めた。そしてこう言った。
「でも彼氏がいないとか関係ないから」
……ん?
今何て言った? と訊こうとして彼のほうを向くと、もう、すぐそこに顔があった。無理矢理流し込んだビールで少し赤らんだ顔。
あ、これ駄目なやつ。
そう思うと同時に唇を塞がれた。
「ん……」
食らいつくようなキス。
(え? え??)
抵抗する暇もなく一瞬の間に奪われたが、触れるだけでは終わらなかった。
アルコール混じりの熱い唇から、ぬるりと舌が伸びてくる。
――ここは居酒屋!