才川夫妻の恋愛事情
ほとんどの時間を家で過ごしたが、始まりが始まりだっただけに、むやみに体を重ねるのはよそうと思った。
最初に抱いた朝〝大人の関係ですね〟と言った彼女は、ともすればこの関係をセフレだと勘違いしかねない。勘違いした上でその関係さえも受け入れてしまいそうな危うさがあった。きちんと「付き合う」と言ったはずだが、念には念を入れて。
俺はとても慎重に彼女に接していたと思う。
同じ部屋で過ごしていても、別々のことをしている時間も少なくなかった。俺がベッドで本を読んでいると彼女がローテーブルでエントリーシートを書いていたり、俺が筆記選考の勉強をしていると彼女が借りてきたDVDを観ていたり。
稀に、彼女の隣で、同じようにベッドに背をもたれて一緒にDVDを観ることもあった。そういう時が一番厄介で、途中、ウトウトとしたみつきが肩にもたれかかってくると自分は試されているんだろうかと少し考える。
真意を探るために「帰る?」と訊くと「帰ったほうがいいですか?」と訊いてくるから、「別に」としか言えなくて。
自分の肩口で静かにテレビを見つめる彼女の、唇がやけに目についた。キスをしたほうがいいんだろうかと迷うけど、今テレビに流れているのはコメディ映画で。コメディを選んだあたり、彼女は別にそういう気分ってわけじゃないんだろうな、とか。肩にもたれている彼女は静かだが、時折ツボに入るようで小さく笑う。その度鎖骨にかかる髪がくすぐったくてかなわなかった。