才川夫妻の恋愛事情
あぁなんだ。始まりこそおかしな展開だったけど。
案外ちゃんと、俺たちは段階を踏んで、関係を築いていけそうじゃないか。
そんな風に考えていたのを、自分の手で打ち砕くことになったのは大学四年の六月。みつきと付き合い始めて八ヶ月が経とうとしていた頃。
東水広告社から内定が出た。
どちらか一方ではなく、二人とも。正直俺が一番心配していたのはそこだった。
〝就活中に付き合ったって、どちらかが不採用になった瞬間に気不味くなって終わるに決まってる〟
過去の自分の考えがブーメランになって自身を襲っていたのだ。選考が進んで、結果のメールを開くたびに走る緊張。みつきが通っていて自分は落ちていたら、やっぱりちょっと顔向けできなくなっていたと思う。やっとまともに築き始めた自分たちの関係に、そんなことで水を差されたくなかった。
だから、自分に内定の電話がかかってきたときは嬉しいより先にひとまずほっとしたし、その後みつきから内定が出たと連絡があったときは心の底からほっとした。良かった。障害は障害とならずに消え去ってくれた。
自分の心配は杞憂だったとわかって。それからやっと、第一志望の会社で働けるんだという実感が湧いてきて。ふつふつと、嬉しくて。ガラにもなくみつきに「二人でお祝いしよう」なんて電話口で言ってしまうくらいには、浮かれていて。
だからこの後やってくるどんでん返しには気付かなかった。