才川夫妻の恋愛事情
内定が出た日の夜。両手にはち切れんばかりのレジ袋を提げてきたみつきは、いつもより豪勢な手料理を振る舞ってくれた。ビールと缶チューハイで乾杯をして、腹が苦しくなるほど食べて。選考中の笑い話や、入社してからやりたいことを語ったりなんかして。俺は少し饒舌になっていた。
二人同じ会社で勤めるとややこしいこともありそうだが、それさえも些細なことだと思っていた。いつもと比べて楽観的な自分。
だから本当に、それは不意打ちで。
食事の片づけをして、二人分のコーヒーを淹れてくれたみつきは、俺の隣に座って信じられないことを言った。
「辞退しようかと思ってるんです、内定」
「……は?」
本当に驚いた声が出た。少しの酔いは完全に吹き飛んで、動揺を押さえつけながら隣に顔を向ける。
「なんで」
内定が出たことを伝えあったとき、みつきの声は嬉しそうだったと思う。家に来て一緒に祝ったみつきも、ついさっきまで嬉しそうにしていたと思う。「辞退しようと思う」と言った声も別段暗いものではなくて、いつものトーンだからなおさら、混乱する。