才川夫妻の恋愛事情
俺の疑問に答えようとする彼女は、暗くはなかったが言葉を探すのに困っているようだった。うーん、と考えながら宙に視線を彷徨わせる。
しばらくすると自分の中でまとまったようで、みつきは口を開いた。
「大学を卒業したら私、家から完全に追い出されることになってて」
「……うん?」
要領のつかめない始まりに疑問符が隠せない。……家を追い出される?
付き合って八ヶ月ほど。まださほど深く知らない彼女の、家庭のことを聴くのもこれが初めてだった。
「これはうちの教育方針なんですけど、大学を卒業したら完全に親子の縁を切るって言われてて」
「……縁を切る?」
「うん、それはもう完璧に。大学を卒業して身分が学生じゃなくなったら、援助しなくなるどころか会いもしないんですって。実際にお兄ちゃんも大学を卒業してから一度も顔を見てなくて。なんか、すごく徹底してるんですよね~」
「なんでそんな極端な……」
言いながら、兄がいたのか、と基本の家族構成を知る。まだ八ヶ月しか付き合っていない。でも八ヶ月一緒にいるにしても自分は彼女のことを知らなくて、同じく自分のことも、彼女は知らない。俺に妹がいることを彼女は知らないんだろう。だって言ってない。
あまりに心を読まれるものだから、それで色々わかるつもりになっていたけれど。それはよくよく考えると彼女が俺の内面をわかっているというだけの話だった。
なんでもない世間話のようなトーンで、みつきの話は続く。