才川夫妻の恋愛事情
「そう思ったら、就職ってすごく良い機会でしょ? 新しい扉開けそうで。いっそ、すごーく地方か、海外か。ずっと遠くまで行って働いてみるのもいいかもしれないなって」
「……」
今こそ俺の気持ちを読んでほしかった。
いや、嘘。読まれなくてよかった。
〝そしたら俺とのことはどうなるんだ?〟なんて思ってしまったことは、格好悪すぎて絶対に知られたくない。
出会ったとき、あの会社説明会で彼女が最初に言っていたことを思い出す。
〝私どうにも飽きっぽいところがあるので、毎日同じ内容の仕事をコツコツやるのは向いてないと思うんですよね~〟
〝……まぁ、人生一度きりですし。死ぬほど働いてみるのも悪くないかなと思って〟
……言ってた。うん、知ってた。実利的でありながら意外と刺激も求めてるってことも、これから働くことに対して熱を持ってるってことも。
わりにしっかりしている彼女のことだから、本当に海外に行ってしまっても立派に生きるのかもしれない。
俺なんてまったく関係のないところで、幸せに暮らしていくのかもしれない。
――そう思うと、すぐに捕まえなければいけない気になった。