才川夫妻の恋愛事情
「みつきがキミを選んだんなら、好きにしなさい。ただし籍を入れるのは大学を卒業してからにしてほしい。卒業した後だったら、なんでも好きなようにするといい」
「……」
妙に突き放すような、それでもそこに娘への絶大な信頼があるような。
これは認めてもらったということでいいんだろうかと戸惑いながら、俺は〝ありがとうございます〟ともう一度頭を下げた。それからちらりと隣のみつきを窺うと、父親の答えは予想通りのものだったようでにこにこと笑っている。
気楽なもんだな……と呆れて見ていたら、彼女のちらりと見えている耳が赤くなっていることに気付いてなんとも言えない気持ちになった。大切に思っているとか、ともすれば〝好き〟の一言すらも、みつきには言ったことがなかったことを思い出す。
今日はきちんと言えたほうだ。ただ一つ、迷った末に「幸せにします」の一言だけ言えなくて。
そのまま昼食をご馳走になることになって、テーブルに移動すると厳粛な空気が一気に緩んだ。それを境に、みつきの母親はずっと我慢していたのか堰を切ったように喋りだす。
「ねぇ才川くん、みつきから色々と聴いてはいたんだけど」
「はい」
……色々と?
外向けの笑顔を浮かべながら、嫌な予感がした。