才川夫妻の恋愛事情
新入社員のみんなはもちろん、〝才川夫妻〟って言って面白がっていた人たちまでうろたえている。明らかにやりすぎだった。降りやまないキスを両手で防御しながら、おろおろと戸惑っているみんなに声をかける。
「私は大丈夫ですから。仕方ないです、才川くん、酒癖よくないし」
慣れました、と言って笑って口を拭って見せると、みんな少しほっとした顔をしてくれた。
いや、慣れるわけないじゃんこんなの! と自分が言ったセリフに対してつっこむ。心臓がまだバクバクいってる。たまったもんじゃない。
竹島くんが言った。
「才川、花村のこと好きすぎるだろ……」
怖ぇよ、とため息交じりに言われたことに対して、才川くんはへらっと笑って返事する。
「好き、大好き。俺の花村」
……それ二人のときにもう一回ちゃんと言ってくれないかな!
〝やれやれ〟と呆れた顔をつくりながら、心の録音機にばっちり保存する。いつでも脳内再生できるように。そんなことを一人しているとぎゅっと肩を抱き寄せられた。
才川くんは言う。正面に座っている新人くんに向かって。
「そういうわけで俺のだから。覚えといてね」
「……」
「俺は酒が抜けたら忘れるけどね」
そう言って、ニヤニヤしながら私の肩に頭を預けてくる。