才川夫妻の恋愛事情
結婚の挨拶は(概ね)つつがなく終わりを迎える。幸か不幸か結婚の承諾を得て、それなりにみつきの両親と打ち解けることができた。帰り際、駅まで送ってくれるというみつきが支度してくるのを玄関で待ちながら、思う。自分の中での今日の評価は及第点。
早くも少し気が抜けていたところに、みつきの父親が声をかけてきた。
「才川くん」
「はい」
「たぶん、キミに会うのはこれが最後かもしれないから」
「……え?」
言われてから一瞬考えて、あぁそうか、と。
大学を卒業したらみつきはこの両親と絶縁して、以後もう会わないのだと言っていた。それはつまり、俺ももうこの二人と会うことはないということ。
理解して、父親の言葉の続きを待った。
「みつきのことをあまり甘やかさず、でも幸せにしてやってほしい」
「……」
〝変な家庭だな〟と思っていた。でも父親のこの言葉で、彼女がとても大事に育てられてきたんだということはよくわかった。同時に〝幸せにする〟という言葉は、こんな風に言わされるのではなくて自分から宣言するべきだったと後悔した。
「……わかりました」
強めに頷く。
この時やっと、自分はみつきを妻にするんだという実感が湧いた。