才川夫妻の恋愛事情



「才川さん」

「…………え?」



遅れてみつきが振り返る。卒業式だったからだろうか。いつもより少しはっきりとしたメイクで、髪をアップにしていて。スプリングコートの下には謝恩会のドレスを着込んでいる。

全部自分の手で解いていくのを想像する。



「ちゃんと、反応しなきゃダメだろ。才川みつきになったんだから」

「……あぁ!」

「自覚が足りないんじゃない?」



言ってやるとみつきは「ほんとですね」と照れるように笑った。

花村みつきは、才川みつきになった。

たったそれだけの、言葉にすると一行で済んでしまう変化。それだけのことがとてつもなく大きく自分の世界を変えてしまうような、重大な、圧倒的に特別なことに思えるのは。どうしてなんだろう。



自分のもの。





「…………うちに帰ったらさ」

「初夜ですか……!?」

「……」



いや、そこは読んじゃ駄目だろ。

わかっても言っちゃ駄目だろ、この空気で。


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