才川夫妻の恋愛事情



あくまでマイペースな彼女に呆れながら。

ただ、彼女の読心術はなかなか鋭くて。言おうとしたことがあながち外れていないからどうしたものかと思っていた。緊張した面持ちで確かめてきたみつきに、否定するのも馬鹿らしかった。



「……うん。新婚初夜だから」



〝朝までしよ〟と馬鹿みたいなことを囁いて、手を繋いで、コートのポケットの中にその手を突っ込む。するとマイペースな彼女も大人しくなった。赤くなって小さな声で「朝まで……?」と尋ね返してくる。それには答えてやらない。





家まで帰る道で、これから始まる結婚生活のことを考えていた。

彼女の父親に言われたのは〝甘やかさず、幸せにする〟こと。後から思い出すとこの言葉はなかなか深くて、あれからずっと心の中に留まって道しるべになっていた。

自分の妻になった彼女と、どうやって付き合っていくべきか。





これからの計画を考えると、もしかしたら自分の気持ちを疑われることがあるかもしれない。みつきが、不安に思うようなこともあるかもしれない。

だから今日だけは、精一杯彼女を甘やかすことに決めていた。これから不安になるときがあっても、今晩の記憶だけは彼女を甘やかすように。それからきっといろいろ我慢をすることになる、これからの自分のために。













その晩〝才川みつき〟になった彼女の体を何度も愛しながら、もうこんなに二度と言わないと思うほど一生分、その耳に「好きだ」と囁き続けた。


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