才川夫妻の恋愛事情


「うん。結婚してるとかは誰にも言わないで、みつきも旧姓で仕事してさ」



言って、ちらっと彼女の様子を窺う。前に一人暮らしの家に来たときは、今手に持っている俺の卒アルを開いて一人ではしゃいでいた。それを今日はただ手に持ったまま、不思議そうに目をぱちぱちとさせて。それから、こう言った。



「わかった。そうするね」

「……」



嫌だと言われるのかと思ったら良い笑顔で返事をされて。

あ、いいんだ……なんて少し気落ちしながら。まぁまぁ計画通りだからいいか、と思い直す。



計画。

このマイペースな彼女を、少しずつこっちのペースに引き込むための計画。





・一つ、会社では他人のように振る舞うこと。





俺の目下の目標は、みつきを飽きさせないことだった。

家でも職場でも一緒なんて、みつきはきっと飽きてしまう。〝毎日同じ業務内容は無理だから〟と言って広告業界に入ろうとしていた彼女だ。同じことの繰り返しに耐えられない彼女に、ずっとこちらを向かせるためには、どうすればいいか。





そんなことに、ほんと、嫌になるくらい知恵を絞った。


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