才川夫妻の恋愛事情
すごく惚れてくれているらしい一方で、こちらの事情を察して離れていこうとする物分りがよすぎる性格。
〝自分は自由だ〟と簡単に地方にでも海外にでも行ってしまいそうな奔放さ。
俺の手の中にいるようで実はそうじゃないことが多分、気にくわなくて。
ちゃんと自分の手の中に落としてずぶずぶに離れられなくしてやりたい。彼女を心から大切だと思う裏にある、自分のそんな仄暗い感情にも気付いていた。
その上で着々と計画をこなした。
・一つ、夜眠るベッドは別々にすること。
新居の寝室には新しいベッドを二台入れた。お陰で学生時代の貯金はだいぶ消耗してしまったけれど、必要経費だったと思う。
運び込まれたベッドを見て、みつきは言った。
「……才川くん?」
「ん?」
「ベッド、二台もいるかな?」
「え?」
「え?」
何言ってんの? って顔で見れば、そっちが何言ってるんですか? って顔で見返してくる。だからはっきりと言ってやった。
「いるだろ」
「いやぁ~、いらないんじゃないかなぁ……」
彼女の言い方がいかにも不満げで、可笑しくて。つい口元が笑いそうになるのを我慢する。
〝会社では他人〟をあっさり了承したみつきが、それだけはちょっと嫌そうにしてくれて安心している自分がいた。
会社では目も合わせない。
夜眠るベッドも別々。
そんな日々が続いて、ある夜。それぞれのベッドで寝つこうとしていると、彼女が俺のベッドの中に入ってきて背中に張り付いてきた。