才川夫妻の恋愛事情
そうして始まった〝同期の花村を溺愛する才川〟という設定はその後四年続いた。いつ頃からか〝才川夫妻〟と揶揄されるようになったり、俺が一方的に迫るだけの関係から彼女も慣れた返事をするようになったりして、関係を少しずつ進展させて。
会社ではべたべたに甘やかして家ではそっけなく振る舞う。これが効果てき面で、彼女の心が毎日ぐらぐらと揺れるのが手に取るようにわかった。
同時に、彼女は俺のことがよくわからなくなっていった。
夫婦でいれば、夫婦になっていけるような気がしていた。
勢いでしてしまった結婚の負い目も、ちゃんとみつきの意識を自分に向けて時が経てば、いずれ気にならなくなるだろうと思っていた。
六年も経ったんだ。流石にもういいだろ。
結婚七年目の記念日に、今まで渡せなかった結婚指輪をみつきに渡そうと思っていた。指輪はずっと寝室のベッドサイドテーブルの引き出しに鍵をかけて仕舞ってあったので、結婚記念日が間近に迫った休日、そっと開いてリングケースの中を確かめた。六年間人の肌に触れてこなかったその指輪は黒ずむことなくまっさらなままだ。
これを渡そうと決めてリングケースを引き出しの奥に仕舞う。ちょうどそのときスマホが鳴った。相手は新聞社の営業担当だった。休日にまで……と思ったが、きっと週明けの広告掲載に何か問題があったんだろうと思って電話に出る。
「――はい、才川です。……いえ、大丈夫ですよ。どうしました?」