才川夫妻の恋愛事情
スマホを片手に持ちながら俺は、引き出しをきちんと閉めたつもりだった。結局電話の内容にそこまで問題はなくて、ただ広告の掲載面が移動したという報告だった。やれやれと思いながら、みつきに布団を干すよう頼まれていたことを思い出して、ベッドの上の掛布団を抱えてベランダに向かう。
――開けっ放しにしてしまったらしい引き出しの中で、離婚届だけをみつきに見つけられてしまったのは本当に間の悪い偶然で。
寝室に戻って、掃除機を脇に抱えながら離婚届を手にするみつきを見たときは眩暈がした。
適当に誤魔化せばよかった。だけどその時に限って言葉が出てこない。
そうこうしているうちにみつきが口を開いた。
「……私ハンコ捺せばいいのかな? これ」
「……」
どくん、と、心臓が嫌に大きく鳴る。
みつきは泣くでもなく、怒るでもなく、ただ凛とこちらを見ている。
「……捺したければ」
「そうですか」
そう言うと彼女は離婚届をリビングに持って行ってテーブルに広げ、必要な個所を記入して印鑑を捺す。なんでこうなった……とうんざりしながら、嫌な心臓の音が鳴りやまない。みつきは捺印した部分のインクをかわかすように離婚届をはためかせ、それを俺に手渡した。
「その紙は好きにしてください。あ、でも才川くんの印鑑は私が持ってるから、必要なときは声かけてね」
「……みつきはそれでいいんだ?」