才川夫妻の恋愛事情



がっかりしたなんてもんじゃない。

彼女のあまりの潔さに、俺の六年間はなんだったんだろう? と苦しくなった。これじゃあ何も変わらない。出会ったあの日に「大人の関係ですね」と言って離れていこうとした彼女のまま。あのときの関係のままだ。

やっぱり、勢いだけの結婚は二人を夫婦にはしてくれなかった。こんなに簡単にくっついたり離れたりできるような結びつきで、どうして指輪なんて渡せるだろう。〝俺の〟だなんて言えそうにもない。

あと一体何をすれば、彼女は自分のものになるんだろうか。



痛む心臓に苦々しさが顔に出そうになるのを堪えていると、みつきが質問に答えた。



「才川くんが私と別れられるって言うなら、いいです」

「……」



それは突き放すようでいて、どこかに絶対的な信頼を含んでいる気がする言葉だった。

同じようなニュアンスの言葉をどこかで聴いたことがあるような気がして、すぐにそれがみつきの父親の言葉だと思い至る。みつきが選んだのなら、結婚でもなんでも好きにすればいいと。そこにあったのは娘は間違えないだろうという信頼。じゃあ今のみつきの言葉には? 〝私と別れられるって言うなら、いい〟 含まれていたものは何だ。それは。



絶対に別れられないでしょう? と彼女は、そう言った?


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