才川夫妻の恋愛事情
確信が得られずに「あっそ」と言って寝室に戻った。とりあえず結婚指輪の残った引き出しに鍵をかける。手の中にある離婚届は、どうしようか。やっと捨てられそうだと思ったのに。
こんな一枚の紙きれをなかなか捨てられなかったばっかりに、よっぽど厄介なものになって手の中に残ってしまった。
修羅場と言ってもいいようなやり取りの後、みつきの様子は普段と何も変わらない。会社でも安定の先読みで仕事に滞りはないし、家で作ってくれる飯もいつも通り美味い。
ただいつも必ずと言っていいほど一緒に風呂に入らないかと訊いてくるのに、それは無かった。甘えたそうにする様子もない。そのまま、結婚記念日も何でもない日と同じように過ぎてしまった。それでも彼女からは何も言ってこなかった。
離婚届のことにみつきのほうから触れてくることもない。あくまで〝委ねた〟というスタンス。ともすれば彼女は、俺がこのまま離婚届のことを有耶無耶にして振る舞っても笑って見逃してくれそうな気さえした。
でもそれでいいだろうか、本当に。
言われたことと委ねられたことの意味を考える。彼女が何か答えを待っているのだとしたら、俺はちゃんと考えて回答を出さないといけないんじゃないのか。
例えば、この離婚届に自分も署名・捺印して。両親に証人印をもらって、市役所に提出に行くとして。