才川夫妻の恋愛事情
「……」
委ねられた離婚届を肌身離さず持って、家でも会社でも同じことを考えていた。ずっと自分で隠し持っていた離婚届を突きつけられて、わかったことは一つだけ。
――あぁ、全然無理。
いつか別れたいと言われたときは手を離さないといけない。縛るように指輪を嵌めさせることもできない。子どもなんて、できてしまったらもう後戻りできなくなる。――そんな風に思っていたはずなのに、もう、とっくに手放せなくなっていたことに気付く。
彼女が今更何と言ったところで、もう無理なのだ。どうしたって手放せない。離婚届には〝降参〟と書いて、みつきから受け取った印鑑で認印を捺した。そもそもあんなに重要な書類、シャチハタが有効なわけがない。今思えばそれも承知の上でみつきは簡単に印鑑を渡してきたのかもしれないけど。それでも俺の負けに違いなかった。背中から、何の効力もない離婚届を受け取ったみつきが笑う気配。
敵わない、とひどく悔しい気持ちになって、それも今回は仕方ないと目をつむる。
年貢の納め時かもしれない。どれだけ自分で〝あのプロポーズだけは無かった〟と悔いていても、自分たちは六年前に結婚しているのだ。俺は今度こそ、ちゃんと彼女の人生を貰い受ける覚悟を決めるべきかもしれない。自分のデスクで頭を掻きながら、そんなことを考えていた。
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