才川夫妻の恋愛事情
思えば絶対に言えないことばかりだ。
告白された瞬間の笑顔があまりに可愛くて、欲しくてたまらなくなって衝動的に抱いてしまったことも。
みつきが遠くへ行こうとしたとき、俺とのことはどうなるんだと無性に寂しくなってプロポーズしてしまったことも。
結婚してからもずっと欲しくて、六年ものあいだ色々と知恵を絞り続けたことも。
絶対に言えないし、言ってもみつきは戸惑うだろう。何度も虐めてきた裏で考えていたことが、実はこんなにも情けないことだと知られてしまったら。もう何をしたって格好つかないじゃないか。
ほんとのことは口が裂けても言わないし墓場まで持っていく。もう決めていた。自分の勝手で貰ってしまった人生だから、絶対に退屈なんてさせない。マンネリなんて無縁の結婚生活にするんだと。よぼよぼになっても彼女を一喜一憂させるような、そんな夫になるんだと。そのために掴みどころのない男でいるんだと。
みつきは一生知らなくていい。
死んでも言えない。それはあの離婚届の一件の後、今日までずっと準備をしてきたこともそうだ。それを明日、実行に移したら。彼女はどんな顔をするだろうか?
できれば告白してきてくれた時みたいに。結婚を承諾してくれたときみたいに。笑ってくれればいいな、と思う。