才川夫妻の恋愛事情
電話の伝言メモを彼に手渡すときに、思った。これはあれかな。無かったことにしてしまうのが得策……? しかも今になって気付いてしまった新事実。才川さんから花村さんと同じシャンプーの匂いがするものだから、もう……。ここまで徹底的に、100%負け戦なのは初めてだ。
どうして今まで気付かなかったんだろう?
どうして、ここまで完全に無理だとわかっていて、まだもやもやしているんだろう。
水曜日の再プレゼンはつつがなく終わった。私はプレゼンテーターではなかったから、関係者の控え席で先輩たちが入れ替わって説明するのをただじっと見守っていた。松原さんは一回目のプレゼンの時と変わらず、優雅に、けれど緩慢にならずキビキビと得意先の経営陣を説得していて。私はその姿を見て、とっても不謹慎だけれど別のことを考えてしまった。
こんなに強くて優しい完璧に見える人でも、咬ませ犬になることがあるのだ。
再プレゼンが済んで、今日こそ定時で帰宅……とはいかなかった。準備に割いた時間、後で後でと後ろ倒しにしてきたレギュラーの業務がだいたい水曜日締切で。それを松原さんと一緒にさばききった頃には終電を逃し、私たちは一緒にタクシーで帰ることにした。
タクシーに乗り込むと松原さんは、いつもピンと伸びた背筋をルーズに反らせてシートに沈みこんだ。
「……さすがに疲れたわね」
「はい」