才川夫妻の恋愛事情
テーブルの下、膝の上でぐっと拳を握って深く息を吸い込んだ。
「――よし! すっきりです! ご飯食べましょう才川さん、私お腹ぺこぺこですよもう」
「あぁ、好きなだけ食べて。野波さん酒は飲める?」
「大好きです」
「いいね」
それからの私たちは、至って普通だった。気まずくなるでもなく、告白をなかったように振る舞うでもなく。自然で、泣くのはあまりに場違いすぎて、目の奥が熱いのはすっと引っ込んでいった。一段落ついたと区切るのは、今日才川さんと別れてからだ。
才川さんが選んでくれたお店の料理は美味しくて、意外なことに珍味が多かった。クリームチーズの鰹の塩辛のせ。かにみそ。お酒の進むメニューに舌鼓を打ちながら、いろんなことを話した。
「松原さん、厳しい?」
「厳しいですよ。でも優しいです」
「だろうな。野波さんもよく松原さんに付いていけてると思うし、よかったよ、二人が相性良いみたいで」
「相性良いですかね?」
「良いと思うけど? あの人トレーナーやるの初めてだから、きみが配属されてくる前は結構緊張してたんだよ」
「想像できない……!」
「そう? でも杞憂だったってわかったんだろうな。野波さんが来て張り切ってるのか、今まで以上に仕事楽しそうだなって傍から見てて思う」
「……そうだったら、すごく嬉しいですけど」