才川夫妻の恋愛事情
「先週、資料室覗きに行ったとき。私ほんとに行くの嫌だったんですからね。喘ぎ声が聴こえたら速攻でセクハラ委員に泣きつこうと思ってました」
「それは行かせた駒田さんに言ってくれ。……でもあの夜さ。野波さんじゃなくとももっと早く誰かが覗きに来るかと思ってたんだけど」
「え?」
「誰も来なかったな」
「そうですね……?」
「席の時間、そろそろですよね。二件目行きません?」
「あぁ、行こうか」
「……意外です。いつもあんなに早く帰りたがるのに」
「たまには遅く帰って妬いてもらわないと」
「はー……。告白してきた後輩を当て馬に使うなんて最低です」
「なんとでも。花村以外に好かれようなんて思ってないし」
「才川さんほんとに! ほんとに今日むかつきます……!」
たくさんのことを話して、この人、呆れるくらい花村さんのこと好きだなーと泣きたい気持ちになりながら、私は思い出していた。才川さんばかりが花村さんを好きなわけじゃない。花村さんも。
思えばあんなことを聴いてしまったから、私は才川さんを意識するようになってしまったんだ。同時に自分が絶対に勝てないということも思い知らされてしまった。
深夜のオフィスは苦いことばかり。
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