才川夫妻の恋愛事情



「……すごく尊敬してる、かな」

「……」



そんな曖昧な言葉でごまかされない。

好きなのか、どうなのか。きちんと問いただそうと――したけれど、花村さんはにこっと嬉しそうに笑う。



「普段はあんなだけど。すごい同期なんだよ、才川くんは」

「……」



そして続けて語りだしたから、私はとりあえず花村さんの話を聴くことにした。



「野波さんも薄々感じてるかもしれないけど、この業界って結構ドライな人が多いでしょ? 冷血、くらい極端に言ったほうがわかりやすいかな。仕事だからってなんでも割り切れちゃう人が多いし、そうじゃないと渡っていけないところもあるんだと思う」

「……そうですね」

「結構みんな言うんだよね。〝今回はあそこに死んでもらうしかない〟とか。長く付き合いあるところでも〝庇いきれないから切れ〟とか。なんか物騒でしょ? でも慣れていくんだよね。だってこれは〝仕事〟だから」



わかる話ではあった。会社の人はみんな面倒見がいいし、親切だ。自分にもとってもよくしてくれる。でも内側には優しくても、外側を向くときにはまた別の一面を持っていた。仕事だから、利益のために切られていく関係がままあるということ。

華やかな仕事の裏にほど、割を食う人がいるという話をよく耳にする。

花村さんは笑った。



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