才川夫妻の恋愛事情



「でもね。才川くんは絶対に誰のことも死なせないの。すごく考えて知恵を絞って、奔走して、最終的に割を食いそうな人の立場をきちんと救ってあげる。……だから残業も多くて大変そうに見えるけど、味方はすごく多いんだよ」



それをすごく誇らしそうに言う。私は何も言えなかった。才川さんがすごいということは、よくわかった。でもそれ以上に。わからされたのは〝勝てない〟ということ。



「なんか、そういう働き方を傍で見てるとねぇ。それだけでこの会社に入った価値ってあったなーって思う。そういう人の補佐をできるのって幸せだなって」

「……大好きじゃないですか、才川さんのこと」

「……うん。こういうのも好きって呼ぶなら、そうなのかもしれないね」



花村さんは照れるように微笑んだあと〝絶対本人には言わないでね!〟と私に念押しした。その直後に花村さんのスマホにラインの通知がきて「今日直帰」と。表示された名前は〝アキちゃん〟だった。

……カモフラージュのつもりでしょうか? それとも家ではアキちゃんと呼んでいるのか……? 才川さんのフルネームが、才川千秋だということは知っている。それで花村さんが自分のボードを消すついでに才川さんのまで消したら、そんなのもうバレバレだ。







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