才川夫妻の恋愛事情



「二日酔いです……ハイパーグロッキーです……逆になんで才川さん平気なんです?」

「いや、昨日は俺も酔ってたよ。家に帰ったときはフラフラだった」



嘘つき。



「フラフラの才川さんって想像できませんね。……それで、ええと、私……。酔ってて記憶確かじゃないですけど、まぁまぁ失礼なこと言いましたよね? 才川さんに」

「はは」

「すみませんでした……」

「二十回くらい〝むかつく〟って言われたかなぁ」

「ごめんなさい……!」

「いいよ、また行こ。今日は一日水分しっかり取って酒抜けよ」

「はい……」



ありがとうございました、とお辞儀して野波さんは自分の席に戻っていった。二人の会話があまりに楽しげな雰囲気で、私はついこぼしてしまう。



「……むかつく才川くん」

「ん? 何?」

「楽しかったみたいで良かったです、昨日。後輩に〝むかつく〟連呼されるなんて、一体どんな話したんですか?」

「……別に気にならないんじゃなかったっけ?」



そう言って薄く笑われると、私はうっと詰まってしまう。そんな家で言ったようなことを引き合いに出してくるのずるい。「そうでした」と笑って私はまた自分の手元の作業に戻る。

隣で小さく笑う声が聴こえて、つられてまた彼のほうを向いてしまう。


< 257 / 319 >

この作品をシェア

pagetop