才川夫妻の恋愛事情
「すごいですね……。でもこれ、箱から出しちゃって良かったんですか? このまま送ったほうがいいんじゃ」
「いいんだよ」
花束を手に抱えたままで小さく笑う。彼がこんなにバラを抱えている姿を見ると、ちょっと可笑しかった。
「結婚しよっか、花村さん」
「……え?」
唐突に彼がそんなことを言って、私は一瞬固まってしまう。お昼休憩明けのオフィスには、昼食に出かけていた人達が戻ってきていて結構な人数がいた。その注目が集まるのがわかる。
一瞬ドキッとしてしまったけれどすぐに気付いた。
あぁ、いつものやつね。
バラが手元にあるからってそんな演技……。
合図くらいくれたらいいのに、と思いながら微笑んだ。
「もー、才川くんったらまたそんなこと言って♡ 本気にしちゃうでしょう?」
「本気」
「……才川くん冗談が」
過ぎます、と言うより前に詰め寄られる。手を握られた。おかしな芝居が始まったあの日みたいに。――ただ違うのは、才川くんの表情は会社での演技の顔じゃなくて。
「真剣に。花村さん」
「俺と結婚してください」