才川夫妻の恋愛事情
ざわっとオフィスがどよめく。「才川夫妻が!」「ついに!」と嬌声をとばす人たち。私は頭が真っ白になった。どういうこと……?
気付けばバラの花束は自分の腕の中に。
「もう隠さなくていいように」
続けて彼はそう言った。「今までも全然隠せてねーよ!」と野次が飛ぶ。――そうじゃない。彼が言っているのは、そういう意味じゃない。
右腕で花束を抱えながら、握られている左の手は震えた。ぽろっと泣きそうになるのを堪える。彼が言っているのは、ずっと隠してきた夫婦関係のこと。
ずっと周りに言いたくて言えなかったこと。
「……もういいの?」
「うん」
「ほんとに?」
「うん。……みつき。夫婦になりたい」
みつきって呼んだ!と周りがざわつく。才川くんはそんな声が聴こえていないかのように穏やかに笑って、それから私の耳元で囁いた。
〝ちゃんと俺のものにしたいんだ〟
……そんなことを言われてしまったら、断れるわけがない。
ぐすっと鼻が鳴りそうになるのをバラの花束に顔を埋めて隠した。一瞬だけそうして、落ち着いたら顔を上げる。すぐ傍に立つ才川くんをまっすぐ見つめて、返事をする。
「――はい、喜んで」
六年前に「結婚しよう」と言われたときと同じように。……もしかしたらそれ以上に満たされた気持ちで、微笑み返した。