才川夫妻の恋愛事情








「というわけで改めまして。うちの妻です」



おめでとー! と祝福の拍手を受けるなか、才川くんはいつもの社内用スマイルに戻って「ありがとうございます」と爽やかに微笑んでいた。私はその隣で嬉しいやら混乱するやらで複雑な心中を隠し、同じように「ありがとうございます」と微笑む。

そして何が始まるのかと思えば、午後から才川くんに手を引かれて各部署を回る結婚報告。「局長たちにも時間とってもらってるから」と彼はしれっと言って、管理職の面々の前では「ついに落としました」とか「ここまで長かったですよー」とか「新婚旅行でお休みもらうことになると思いますが、ご迷惑おかけします」……だとか!

何一つ聴かされていないことが彼の口からぽんぽんと出てきて度肝を抜かれる。秘密は終わったはずなのに、これはこれで心臓に悪い……!





それでも「おめでとう」と言われるとにやけてしまいながら、午後をたっぷり挨拶まわりに費やして、その日。〝才川夫妻〟は社内公認の本当の夫婦になった。













その夜。

金曜日だったこともあり、営業二課で〝才川夫妻の結婚祝い〟と称した飲み会が行われた。最初はまともに部長の挨拶から始まって、お祝いの言葉をもらって。一体いつ付き合ったの? という質問が飛んできて私がドギマギしていると、才川くんは〝内緒ですよ〟と言ってすべてひらりとかわし続けた。

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