才川夫妻の恋愛事情



ただわかっていたけれど、営業二課の面々は酒癖がよろしくない。時間の経過とお酒の減りと共に松原さんの絡み酒が始まる。



「なんなの才川。ほんとになんなの……? 昇格だけじゃなくて結婚まで私より先なの? 誰に許可とったの?」

「すみません松原さん、お先です」

「はーほんとむかつきますね才川さん! 昨日話したことって一体なんだったんです? むかつきます!」

「うん、野波さん。お前はお茶を飲もうな」

「……」



才川くんに絡む二人を見ながら、ほんとに似た者子弟だなぁと思った。





一軒目を出る頃には大半が酔っ払っていて、強引に全員参加の二軒目ルートに突入する。「行くぞぉー!」と部長が先導をきるのにぞろぞろとついていく末尾で、才川くんが話しかけてきた。



「帰るだろ?」

「え?」

「二軒目行きたい?」

「や……でも才川くん行くでしょう?」

「行かないだろ。なんでプロポーズ成功した夜に会社の人と飲み明かすんだよ」

「は」



そうなの? と訊こうとしたけど、先に彼がばっと私の腕を掴んで上に高く掲げた。



「――すみません! 俺たちここで抜けますね。今日はありがとうございました!」



えぇっ! と明らかな不満の声が聴こえてきたけれど、才川くんは気にすることなく私の手を引いてまわれ右をした。そのまま足早に自宅方面に歩いていく。



「えっ、才川くん……いいの? せっかくみんな祝ってくれてたのに」

「いいよ別に。みんなもう目的変わってるだろ。こんな日くらい許してもらえる」

「……」



< 263 / 319 >

この作品をシェア

pagetop