才川夫妻の恋愛事情
それから彼は何も言わずに家まで私の手を引いて歩いた。少し急ぐようなその足取りが、手の熱さが。告白して初めて才川くんの家に行った日を思い出して無性にドキドキする。
この足取りと、さっきの「こんな日くらい」という言葉。それからきゅっと力の入っている握った手。
……もしかして今日もするのかな。なんて、不埒な考えが頭をよぎった。
マンションに辿りついて部屋に入ると、私はいつも通り才川くんのスーツを受け取った。
「……さすがに今日は疲れたな」
「うん……」
「びっくりした?」
「当たり前です」
それは良かった、と笑って彼はネクタイを解く。
「風呂どうする? みつき、先入る?」
「ううん、才川くん先に――あ」
「あ?」
「や、んーと……。……一緒に入らない?」
「……」
今日はもしかしたら、という期待がぬぐえない。
才川くんは黙ったまま首元を開けたYシャツ姿で近付いてくる。すっと手を伸ばしてきて、私の横の髪をくるりと指で遊んだ。
「……」
じっと見つめて、黙り込む。その目の色は深くて、彼の出す答えはさっぱり予想がつかない。……もしかして、考えてる? 検討中? ――そう思った途端、うわぁ、と恥ずかしくなって、ぱっと視線を下にそらした。