才川夫妻の恋愛事情
「入らないよ」
「……あ、そうですか」
頭上から降ってきた答えに脱力した。やっぱりそれはダメですか……。
その後才川くんは一人でお風呂に入って、交代で私が入った。髪を乾かすともういい時間になっていて、深夜一時。明日も仕事だったら、今日はもう休むだろう。でも明日は土曜日だ。
もしかしたら、と密かに胸をドキドキさせながらそっと寝室に足を踏み入れる。
才川くんはいつも通りベッドに座って文庫本を読んでいて、私に気付くと視線を上げてふっと笑った。
「こっちくる?」
「……うん、いく」
ドアから彼のベッドに行くまでの距離で、尋常じゃないほど緊張している自分がいた。才川くんは私が近付くと少し横にずれて、「どうぞ」と言ってできたスペースに私を招き入れる。
そろりと忍び込んだベッドの中は温かくてとても居心地が良かった。ぴたりと隣の才川くんにくっついて下を向く。
「なんでずっと黙ってんの」
「……うん、なんかね」
「うん?」
「照れますね……」
「何に?」
「〝ちゃんと俺のものにしたいんだ〟とか言われちゃうと。……照れる」
「……あぁ」
急に甘く低くなった声のトーンに上を向くと、すぐ傍に顔があって唇が重なった。私は目を閉じて、手元にあった布団の端をきゅっと両手で掴む。
「ん……」