才川夫妻の恋愛事情
「お前は俺が悪いって言いそうだけどさぁ……。みんなの前でトロ顔すんのやめてくんないかな」

「し、してないよ……!」

「してたよ。気持ちよさそーに目ぇとろんとさせて、顔赤くして。せっかく牽制したのにあれじゃ意味ないかも」



もう片方の手のひらが胸を包んで、その形を明らかにするように服の上から揉みしだく。やらしい触り方。きっとわざと羞恥心を煽っているんだ。……嫌な人。



「才川くん……もうあぁいうのは」



嫌な予感はしていたのだ。あの新入社員の男の子の前に座ると彼が言いだしたときから。

絶対に何かするつもりなんだと、わかっていた。



「〝千秋〟だ」

「っん……」



耳元で囁かれて背筋が震える。



「いい加減、二人のときくらい名前で呼べば? もう何年〝才川くん〟だよ」



ちゅっと首筋を水っぽい音をたてて吸いながら、才川くんは言う。ずるい。いつもは才川くんって呼んでも文句言わないくせに。こういうことしてる最中に本音を話すみたいにそういうこと言うの、ほんとにずるい。


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