才川夫妻の恋愛事情


みつきはいらない? と、汗の浮かんだ顔が困ったように笑って訊いてくる。

言われたこととその表情に胸がぎゅっとなって、泣きそうになった。



「っ……欲しいっ……」

「ん。わかった」



それだけ言うと才川くんは私の額にキスを落とした。それがなんだか無性に恥ずかしくて、自分の左手の甲でキスされた部分に触れた。その時。額に触れた感触が、ひんやりと冷たい。



「……え?」



自分の目の前に左手をかざして、初めて、左手の薬指に指輪がはまっていることに気付いた。

びっくりしすぎて頭の中が真っ白になる。〝着けてない〟以上の衝撃に言葉を失った。それに気付いた才川くんが一瞬速度を落とす。



「……何これ。……え? いつ……?」

「……内緒」

「内緒、って……あっ」

「こっち集中して」

「んんっ……!」



耳の中を舐められて、一瞬どこかに飛んでしまっていた快楽が戻ってくる。腰を打ち付ける動きが激しさを増して、何にも隔てられていない直の感触に背筋から迫りくる何か。



「ふ、っ……!」




まったく意味がわからなかった。

急に子どもが欲しいと言い出したことも。自分の左手に指輪がはまっていたことも。

意味はわからないのに、満たされてしまっていた。




たぶん彼の愛情は、底知れない。











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