才川夫妻の恋愛事情
「ほんとは、六年も我慢することなかったんだよな……」
「え?」
彼はまたよくわからないことを言って、寝そべったところから手を伸ばして私の頭を撫でた。
「わからなくていいよ。……お前は今まで通り、自分は才川みつきなんだってことだけ自覚して、愛されてるなって思いながらぼけーっとしててくれ」
「……人をアホの子みたいに」
「あとたまにでいいから、俺のことも名前で呼んで」
「え」
予想外のお願いに一瞬固まる。才川くんは寝そべったままちらっと私の顔を見た。
いやいや、恥ずかしいものは恥ずかしい……と思ったけど、なんだか今は、言えそうな気がして。
「…………千秋」
呼んだ途端、才川くんは枕に顔を突っ伏した。
(え、え?)
なんでなんでどうして! と、言わされた自分が一番恥ずかしいはずなのにおろおろしていると、才川くんは。
「……っく」
ぷるぷると震えだした。
「……」
……こいつ、笑っている……! 言わせておいて笑っている……!