才川夫妻の恋愛事情
なぜ今、私は眠る彼の寝顔をこんなに間近で見つめることができるのか。
こんなこと六年間の結婚生活の中で一度もなかった。なぜなら私たちはずっと別々のベッドで眠っていたし、抱き合うことがあってもたいてい私のシングルベッドで、終わると才川くんは必ず自分のベッドへと戻っていった。朝、余韻に浸るように腕の中でおはようと挨拶したのは……思えば、結婚してからは一度もない。衝撃の事実に気付いて固まった。
再び閑話休題。
なぜ今、私は眠る彼の寝顔をこんなに間近で見つめることができるのか。
昨日、この寝室に奇跡が起きた。
「……ん」
「あ」
長い睫毛の下の目が薄らと開く。
起こしてしまった。慌てて触れていた手をぱっと離したけれど、ちょうどいい時間だ。もうそろそろ起きなければ会社に遅刻してしまう。
「おはようございます」
同じベッドに寝たまま、目と鼻の先にある才川くんの眠そうな顔に笑いかけた。
きっと彼は〝ガン見するのやめて〟なんて言って、寝顔を見られたことにちょっと不機嫌になるに違いない。こんなに近くで見られるならそれもいいなと思って、にやけだしそうな顔で彼の反応を待った。
だけど私の予想ははずれていて。
「…………みつき」