才川夫妻の恋愛事情
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家に帰ってきた彼が、玄関の鍵を締めたときだった。
「あ」
スーツのジャケット、袖の部分のボタンが今にも取れそうになっていることに気付く。その声に反応して、お風呂をあがったところらしいみつきが脱衣所から顔を覗かせる。
「おかえりなさい。どうかしました?」
「いや……ボタンが取れそう」
「あら」
パジャマに着替えていたみつきは、髪を乾かすところだったのかドライヤーとコンセントを手に持ったまま彼に近づいていく。
「すぐ付けますね」
「あぁ、悪い」
言うとみつきは本当にすぐ付けてくれるつもりのようで、彼がジャケットを脱ぐのをその場で待っている。彼はこのやり取りを“なんか会社っぽいな”と思いながら、鞄を廊下に置きジャケットを脱ぐ。それをそのまま彼女に手渡す。
「頼む」
「はい! じゃあ才川くんはこっちを」
「え?」
彼はジャケットと交換する形でドライヤーを受け取った。みつきはジャケットを持って機嫌よくリビングへ。よくわからないまま彼もリビングへ行くと、みつきはソーイングセットを取り出してラグマットの上に座り込んでいた。早速取れかけのボタンを取り外しにかかっている。
髪を濡らしたまま。
「……」
リビングの入り口で立ち尽くす彼は、手にあるドライヤーを見て『あ、そういうことか』と。彼女はボタン付けで手が塞がっているから乾かせと、そういうことなんだろうと。理解して彼は、電源にコンセントを刺してみつきの後ろに座って胡坐をかき、ドライヤーの電源を入れた。ブォー、と温風が吹き出す。
「危ないからあんまり揺らさないでね」
「うん」
返事をしたものの。
(……ん?)
別にボタン付けは後でよくないか? と。みつきの髪をわしゃわしゃ乾かしながら彼は思った。
結局みつきは「やっぱり乾かされながらは危ない」と手を休めて彼に髪を乾かされていた。
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