才川夫妻の恋愛事情


いつも通り隣同士のデスクで仕事をしていた。俺が見積りを作る傍ら、みつきは部員宛ての郵便物を各人に振り分けていた。

ふと、彼女が手を止めてじっと止まったので、俺は何気なく隣を見た。すんっ、と白けた表情の横顔。……なんだ?

「……どうかした?」
「ううん、別に。はい、これ才川くん宛てのやつ」
「ああ」

目が笑っていないみつきから受け取る。ダイレクトメールや協力会社からの請求書の一番上に重ねられていたのは、メッセージカードだった。

差出人は、撮影に立ち会ったCMに出演していた女優。本人の文字かはわからないけれど撮影のお礼と、“今度食事でもしましょう!”というリップサービス。

「……」

これを見て不機嫌になったのか?
明らかに社交辞令なのに。

もう一度隣を見ると、みつきがじっとこっちを見て俺のリアクションを観察していた。
彼女は読みきれなかったのか、迷いながら口を開く。

「…………綺麗だった?」
「うん、美人だった。オーラがあったな」
「……」
「顔がめちゃくちゃ小さくて。スタッフにも腰が低くて、性格も良かったよ」
「へぇ……」
「もしかして花村さん、妬いてる?」

わざと褒めて見せてから、顔を覗き込んで訊いてみた。

演技に乗じて“浮気は嫌ですよー!”と言うか、不機嫌に“妬いてない”と怒るか。どっちだろうと思って様子を窺っていたら、どちらでもなかった。

ふいっと顔を背けて彼女は。



「妬くのもおこがましいでしょ、相手は女優さんだし」



……あれ?



「……花村?」
「ちょっと童顔なだけの一般人に勝てる相手じゃない……」
「……」



(まじへこみしている……。)



その“ちょっと童顔なだけの一般人”に7年も執着してる自分って一体……と思いつつ、今夜は可愛がる日にしようと決めたのだった。



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