才川夫妻の恋愛事情

「綺麗につけれた?」

「才川くん」

「ん?」

「……したい」

「何を?」



その余裕な態度がイヤ。

彼の首筋に噛みついた私は、その匂いに、髪を撫でる手に、すべてに、欲情していた。



「何がしたいのか言って?」



未だに挑発的に笑うその顔が憎らしくてたまらないのに、今しがた自分でつけた首筋の痕と相まってクラクラする。

欲しい。

浅ましい欲望には、従順に。私は彼が求める言葉をそっと耳元で囁いた。



「――――」

「……そんなにしたいんだ?」



こくんと頷く。



そして彼のベルトに手を伸ばした。




――――けれどここで、才川くんは言うのだ。














「でも今日はあんまり気分じゃないかなぁ」

「……!」



しれっと。悪戯に。

わりと素直に誘っているつもりなんだけれど高確率で断られる。夫婦になってから六年、ずっとこんなかんじ。

……でも今日はなんだかいけそうな気がしてたのに! 言わせといてあんまりだ!

すっかりその気になってしまっていた私は、ただただ恥ずかしくて、頬が熱いのを隠しながら「そうですか、残念」と返す。





残念どころじゃない。





会社ではベタベタに甘やかしてくるくせに、家ではこの淡泊さ。普通逆じゃない? 会社では他人のように振る舞って家で甘やかしてくれるならまだしも。




どうしてなの、才川くん。


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