才川夫妻の恋愛事情
大学卒業と同時に籍を入れた私たちは、入社する前に決めたのだ。
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すごく恥ずかしいことを言わせておいて「でも今日はあんまり気分じゃないかなぁ」とおっしゃる。夫の安定の釣れなさに今日も涙で枕を濡らす。なんとベッドも別々です。
誕生日。結婚記念日。事あるごとに「ダブルベッド欲しいなぁ!」とねだってきたけれどすべて今まで却下されてきました。なぜ。
「……才川くん」
真っ暗に電気を落とした部屋で、隣のベッドに横たわる少し離れた背中に向かって声を投げる。
「……」
返事はない。じっと息を殺すと微かに寝息が聴こえた。もう眠ってしまったらしい。
抱きしめたいのになぁ。
暖かい春でこうなのだから、人肌恋しい冬はどれだけこの距離が恨めしいか。もう結婚して六年も経つのに未だに自由に触れられなくて、虚しい。
「……はぁ」
私は寂しいんだろうか?
一人きりのベッドの中でこんな風に彼の背中に視線を送って。抱きしめて髪を撫でてほしいと、毎晩のように思っている。
もしかすると会社でならば。私を溺愛する会社の才川くんだったら、〝抱きしめて〟とお願いすれば、ぎゅっと強く体を抱いて甘い言葉を囁いてくれるんだろうか。……うーん、それもちょっと欲しいのと違うなぁ……。
あんなベタ甘の才川くんじゃなくて。
ちょっと素っ気ないくらいの彼に不器用に優しくされたい。
そんなことを考えながら、ウトウトと眠りの中に落ちていく。
その晩、私は、夢を見た。
自分で夢だとわかるその不思議な夢は、入社してすぐの私と才川くんの姿を映しだしていた。
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