才川夫妻の恋愛事情



入社したての頃、私たちは会社ですれ違っても目も合わさなかった。



「みっちゃん、もしかして才川と仲悪い?」



夢の中で、入社したての、まだハタチ過ぎてそこそこの垢抜けないはやまんが心配そうな顔で問いかけてくる。私は「そんなことないよ」となるべく明るく笑って返していた。

今思えば、最初は過剰に避けていたかもしれない。







大学卒業と同時に籍を入れた私たちは、入社する前に決めたのだ。







シーンが切り替わって今住んでいる部屋の中。まだがらんとしていて、部屋の隅には段ボールが積み上げられていた。今より少しだけ若い才川くんがシャツの袖を捲って荷解きをしている。私は彼が段ボールの中から取り出したものを受け取って収納へとしまっていく。新居に移ったその日に、彼がいつものトーンで話したこと。



「新入社員がもう結婚してるってさ」

「うん」

「ちょっと生意気に映るよな、きっと。人によっては」

「まぁ、うん。そうかなぁ」

「その上夫婦揃って同じ会社に入社してきたってなったら」

「……」



受け取った才川くんの卒アルを手に固まったまま彼の顔を見る。何が言いたいんだろう?

言われてみればそうだと思った。別に四六時中一緒にいたいとか、そんな理由で同じ会社に入るわけではないのだけど、はたから見れば私たちは片時も相手と離れたくない痛い新婚カップルに見えるだろう。
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