才川夫妻の恋愛事情
特に動揺もしていなければ、嬉しそうでもない。本当に、どうかしたのかって不思議そうに訊いてくる。
わかってるくせに。そう思って私は黙っていた。
「……」
「……なに。……寂しいの?」
ほらね。わかってるのに言わせようとするところ本当に性格が悪いと思うな!
でもケンカがしたいわけじゃないから、口には出さない。
聴いてほしい不満はそれじゃないから。
初めて潜り込んだベッドは二人分の体温であったかい。背中から伝わる体温にほっとしながら、顔が見えないのを良い事に言ってみる。
「……結婚したのに、なんか遠いんですが」
私のつぶやきは、真っ暗な寝室の闇の中に独り言のように消えていく。
少し遅れて、抱きついている背中のむこうから声がする。
「そうだな」
肯定した彼の言葉は、心なしか笑っているような気がした。
……そうだな、じゃなくてさぁ。でもまぁいいか、とこの時は、伝わる体温に懐柔されてしまったのです。私はすぐにうとうとと、眠りに落ちてしまった。
*
会社で才川くんが私を補佐につけて溺愛するようになるまで、ずっとそんな生活だった。溺愛されるようになったらなったで前にも増して家ではドライだし、未だにベッドは別々だし。
心配は特にしてないんです。彼が私のことをどう思っているのか、さすがにこの六年でよく知っているので。
でもあとほんのちょっとくらい、可愛がってくれてもいいんじゃないでしょうか? 才川くん。
昔の夢を見た私は、朝、身体にかかる重みと違和感で目を覚ます。