才川夫妻の恋愛事情
「やだ才川くん、大きい声で……秘密だって言ったじゃないですかっ。……すごくよかったです」
花村さんも恥じらうように目を伏せる。
「……」
下品なフリでもしっかり対応する二人に、ある意味感心した。
「花村さんも、すごく可愛かったよ」
「才川くん……」
「うるせぇノってんじゃねぇ! 花村も! もう着替えないと遅刻だぞ」
「わかってるなら振らないで!」
竹島くんのバカ! なんて言いながら花村さんは才川さんの腕から抜け出てバタバタと更衣室へ駆け込んでいった。
残された才川さんは行き場のなくなった手を下ろして、笑う。花村さんの後ろ姿を見つめながら。
「あともうひと押し、ってかんじするよな」
「何がだ」
「もうそろそろ一線超えさせてくれそうじゃない?」
「嬉しそうに何言ってんだ朝から。野波の顔を見ろ、ドン引きだぞ」
「えー、ひどいなぁ野波さん」
ニコニコと私に笑いかける才川さん。不覚にもその顔にドキッとした。……この笑顔もどうも胡散臭いんだよなぁ。格好良いけど。感じよく笑ってはいるけど何と言うか、目が策士っぽいと言うか……。
「……っと。そろそろ得意先から電話くるかも。先行ってる」
そう言って何事もなかったかのように、才川さんはオフィスへと入っていった。残された私と竹島さんは顔を見合わせる。
「……びっくりした。あそこまでノってくるとは思わないよなぁ」
「ですね……」
「あの様子じゃ、噂もあながち嘘じゃなかったりして……」
「噂?」