才川夫妻の恋愛事情
どこか幼くてかわいらしいあの女の人は、書類の下に隠して間違いなく笑っていた。
言葉を交わすことなく一連のやり取りを終えた二人。不思議なものを見たなぁ、と思ったその後、私は松原さんにこってり絞られた。
「ほんと良い度胸してるわあなた」
きれいに微笑んでいても眉根に皺ができていた。トレーナーにつくのは私が初めてだと言っていた松原さんは、ドカンと一発雷を落とすタイプかと思ったらそんなことはなくて。声を荒げて怒るのが嫌いなのか、静かにとくとくとメリハリをつけるよう諭された。
「別にいつでもいい子でいる必要はないわよ。たまにははずれたことしないと頭一つ飛び出ることはできないし。でも基本はなるべく素直に振る舞って社内に味方はつくっておくことね」
「はい」
「それで? 野波は何にそんな気をとられていたの?」
隣同士のデスクで、今度はノートパソコンを畳んでこちらに体を向けて話を聴いてくれた。それが少し嬉しくて、私はさっき見たものをぺらぺらと話してしまう。
「……ということがありまして」
よそ見をしていたいきさつを話すと、松原さんは適当に相槌を打つ。一連の流れを説明すると松原さんは興味なさそうにデスクに頬杖をついて言った。
「……で?」