才川夫妻の恋愛事情
そんなこんなで。
遅刻です。
「……才川くんのあほ! 色狂い!」
「花村さんもう会社近いから。それは聴かれるとさすがに言い訳に困るから」
ついさっきまでの甘い空気はどこへやら。彼の数歩後ろをせかせかと小走りになりながら後ろ姿に小言を飛ばす。いつもは時間をずらしてどちらかが先に家を出るのに今日はそんな調整をする余裕もない。どちらかが遅れて出れば、そのどちらかは確実に遅刻する時間だった。それもこれも……。
「時間くらいちゃんと計算して! あんなタイミングでもう一回なんて、どう考えても間に合うわけがっ……」
「悦んでたくせに」
「……な」
「ぐずぐずになって自分から――」
「もう会社着きます!」
「さっきからそう言ってる」
腹だたしい……!
朝から喚く私と通常運転の才川くん。同時に会社のビルの中に入って警備員さんに挨拶をする。おはようございます、とにこりと笑って愛想よく。ちらりと腕時計を見ると始業五分前。……なんとかいける、か? まだ油断はできない。才川くんは間に合うかもしれないけど、私にはまだ制服に着替えるというステップが残されている。